光のとこにいてね<一穂 ミチ >

<あらすじ>

――ほんの数回会った彼女が、人生の全部だった――

古びた団地の片隅で、彼女と出会った。彼女と私は、なにもかもが違った。着るものも食べるものも住む世界も。でもなぜか、彼女が笑うと、私も笑顔になれた。彼女が泣くと、私も悲しくなった。
彼女に惹かれたその日から、残酷な現実も平気だと思えた。ずっと一緒にはいられないと分かっていながら、一瞬の幸せが、永遠となることを祈った。
どうして彼女しかダメなんだろう。どうして彼女とじゃないと、私は幸せじゃないんだろう……。――二人が出会った、たった一つの運命、切なくも美しい、四半世紀の物語――。

 

<評価>★★★★★

この小説も話題になっていたので読んで見ましたが、非常に良かったです。裕福なお嬢様として育てられてきた結珠と、貧しく、満足に服も用意されない果遠。7歳で彼女たちは初めて出会い、お互いの境遇の違いに驚きますが、二人とも非常に歪んだ親を持つという点では共通でした。

その後彼女たちはすぐに別れることになりますが、高校になって二人は再会します。ただ、果遠はあまりにも変わってしまっており、金持ちしか通えない高校なのに、奨学金により特待扱いをされ、結珠はあまりの変貌ぶりに距離を置くようにしかつきあえません。同様に果遠も積極的に結珠に話しかけようとはしませんでしたが・・・。

結珠は医師の家庭に生まれ、医師になるように親から期待されていますが、本当は別に夢があり、親の期待に応えることに重圧を感じています。また、果遠の母は子供の世話をロクにせずに、失踪するような親であり、この作品の大きなテーマとして、親と娘の関係というのがあると思います。全く違った性格の二人が、成長につれてお互いの家庭や、境遇を見つめなおし、二人の関係性も少しずつ変わっていますが、別れの時にいつも語られる「光のとこにいてね」というフレーズが非常に印象的です。

百合小説と語られることもありますが、二人の関係性は単純に百合といった関係で片付けられるものではなく、友情、家族愛、その他どの単語でも一言では表せない不思議な関係かなと思います。

最後の終わり方がちょっと唐突過ぎる感じがありますが、非常に筆致も繊細かつ美しく読みやすいので、お勧めです。