十戒<夕木 春央>

<あらすじ>

浪人中の里英は、父と共に、伯父が所有していた枝内島を訪れた。
島内にリゾート施設を開業するため集まった9人の関係者たち。
島の視察を終えた翌朝、不動産会社の社員が殺され、そして、十の戒律が書かれた紙片が落ちていた。“この島にいる間、殺人犯が誰か知ろうとしてはならない。守られなかった場合、島内の爆弾の起爆装置が作動し、全員の命が失われる”。
犯人が下す神罰を恐れながら、「十戒」に従う3日間が始まったーー。

 

<評価>★★★☆☆

クローズドサークルものとしてはかなり展開も早く飽きさせず、また爆破装置が島に仕掛けられ大量の亜硝酸ナトリウムがあり常に犯人は島を爆破できるという緊張感から、全員が犯人の科す細かな指示に従わないといけないというのもうなずける設定です(う〇ねこのなく頃にと似ているような気もしますが)。

ただ、劇中でも言われていますが、最初の犯行自体がかなり突発的なものであり、犯人が十戒を要求しても、うまくいく可能性は結構偶然に依ってしまうのではないかと思いました。そもそも、こちらも劇中で言われていますが、誰かが錯乱して指示に従わない可能性も十分あるわけで、犯人はその場合にはもちろん島全体を爆破するつもりだったんでしょうが、そうすると逆に十戒を守らせて3日間立てば全員帰れるように腐心する必要性があまりないような・・・。

真犯人は割と予想がつきやすい気がしますが、叙述トリックとしてちょっと不親切な、地の文自体が一部信憑性がないのは少しアンフェアな気がしました。結局犯人ってバレているわけですし、十戒を守らせてまで犯人であることを隠したかったのであれば、里英も殺しておかないと一貫していない気もします。

結局犯人は特にお咎めもなく自由の身になりますが、続編も期待できるような終わり方でした。同作者の「方舟」も評価が高いので、トライしようと思います。