ラブカは静かに弓を持つ<安壇 美緒>

<あらすじ>

武器はチェロ。潜入先は音楽教室。傷を抱えた美しき潜入調査員の孤独な闘いが今、始まる。『金木犀とメテオラ』で注目の新鋭が、想像を超えた感動へ読者を誘う、心震える“スパイ×音楽”小説!

少年時代、チェロ教室の帰りにある事件に遭遇し、以来、深海の悪夢に苛まれながら生きてきた橘。ある日、上司の塩坪から呼び出され、音楽教室への潜入調査を命じられる。目的は著作権法の演奏権を侵害している証拠をつかむこと。橘は身分を偽り、チェロ講師・浅葉のもとに通い始める。師と仲間との出会いが、奏でる歓びが、橘の凍っていた心を溶かしだすが、法廷に立つ時間が迫り……

 

<評価>★★★☆☆

丸善で平積みされていたので、興味があり読んでみました。過去にチェロ教室に行く際に誘拐未遂事件にあい、トラウマに苛まれる橘が音楽教室に潜入調査を命じられ、因縁の楽器であるチェロを教わりながら著作権侵害の証拠を集めるのですが、講師である浅葉、また教室の他の友人たちと仲良くなりながら、自分のやっていることに葛藤を感じていくストーリーです。

面白くないわけではないのですが、正直主人公である橘の心情がいまいち理解できず、例えば急に任務を放棄して、折角色々集めた証拠をすべて廃棄するのがちょっと唐突な気がしました。もちろん浅葉とのやりとりで少しずつ心が開いていき、浅葉がコンクールに再度挑戦しようとするのを知り、彼のコンクールがうまくいくように証拠をすべて隠蔽しようとすること自体は動機として成り立っているのですが、それならその後偶然に全著連の職員であることが浅葉にバレたときに、虚勢を張る理由がちょっと良くわかりませんでした。

既に実はもう一人のスパイである三船が仕事をやり遂げていることを知っているわけで、浅葉に挑戦するような態度を取るような必要はなかったような気がします。というか後で全部消すなら、最初からやらなくてよかったのでは・・・(そうもいかないかもしれませんけど)。

このチェロ教師である浅葉も、やや長髪で、初対面で雨に降られタオルを髪に巻いて登場し、少しなれなれしいところもある「チャラ男」的な印象があるのですが、こちらも美形ですが、トラウマを持ち、控えめで大人しめの要望である橘と浅葉が少しずつ心を通わす描写は、完全に偏った見方なのですがなんか安っぽいBL漫画のような描写で、ちょっと漫画チックだなと感じました。

スパイ潜入者としてはちょっと状況がそこまでシビアではありませんし、橘が少しずつトラウマを回復する描写もある意味よくある描写である友人たちとの交流で、最重要人物である浅葉とのやりとりはちょっとBL likeな印象と、色々中途半端な印象です(最後の浅葉との再会も結構それっぽい・・・)。

悪くはなかったので、また同じ作者様の別作品もトライしてみたいです。

 

大正殉愛 金魚撩乱<岡本かの子、 ヨシカズ>

<あらすじ>

彼女を金魚としてモノにしたい――。時は大正。金魚屋であることに劣等感を抱く復一は、崖邸のお嬢様・真佐子を執拗にイジメていた。彼女を泣かせたときに抱く甘く歪んだ征服欲に、復一は夢中になっていく。しかしある日、反撃に出た真佐子によって、征服する側からされる側へと、復一は堕ちてしまう――。岡本太郎の母・岡本かの子が描いた名著『金魚撩乱』、大正耽美系サイコ・ラブが鮮やかに再誕!

 

<評価>★★★★☆

こちらもかの有名な岡本かの子の1937年に発表された金魚撩乱の漫画化。岡本かの子太陽の塔で有名なかの岡本太郎芸術は爆発だ!の人)の母ですが、かなり奔放な性格だったようで、自宅に夫を言いくるめて自分の愛人を住まわせていたほどの女傑です。その作風は、耽美かつ退廃的なものが多く、この金魚繚乱も好きな作品だったのですが、漫画化しているのは知らなかったので読んでみました。

貧しい金魚屋である復一が、金持ちのお嬢様である真佐子に拗らせまくっているのは原作と同じストーリーですが、大きく違うのは友人である日野の存在でしょう。

 

子供のころは真佐子をいじめていた復一ですが・・・

(完全に好きな子を虐めちゃうアレ)

出典:大正殉愛 金魚撩乱 1巻

中学生になって可愛くなった真佐子に偶然会い、ドキドキしてめっちゃ動揺する復一

(落ちたな・・・)

出典:大正殉愛 金魚撩乱 1巻

原作では真佐子の夫に関しては大きな掘り下げはありませんが、漫画版では同級生であり、富豪の息子である日野が、最終的に真佐子と結婚することになります。ただ、大筋のストーリーは原作通りで、真佐子に愛憎複雑な恋心を抱きながらも、ただ究極の金魚(ある意味自分が手に入れることが出来なかった真佐子の代わりとも言えます)を作るということに没頭する復一の葛藤が赤裸々に描写されています。

他に原作と少し異なるのは、真佐子も復一に明確な感情を持っていることが描写されている点でしょうか。原作ではそこまで感情があらわになる描写がなかった気がします。

身分の差、意地の張り合い、征服欲と非征服欲など、色々屈折した感情が入り混じりますが、最後は一応?ハッピーエンドなのかな。

原作もそこまで長くないので、お勧めです。レ・ミゼラブルもそうですが、名作の漫画化で質が良いものを見つけると本当にうれしいですね。

青空文庫で無料で読むこともできます。

岡本かの子 金魚撩乱 (aozora.gr.jp)

京都出張

某学会へ参加するために京都へ行ってきました。

時間が少し出来たので、短時間だけですが京都を散策。

京都霊山護國神社壬生寺のみ行きました。

有名どころは海外観光客が多すぎてちょっと待ち時間なども考えると無理でしたね。

京都霊山護國神社

坂本龍馬中岡慎太郎の墓①

坂本龍馬中岡慎太郎の墓②

近江屋事件にて襲撃された坂本龍馬中岡慎太郎の墓。墓自体はかなり古く、年季を感じます。

木戸孝允の墓

同じ霊園に桂小五郎の墓もあります。隣には妻 幾松(松子)氏のお墓も。

竜馬を斬った刀

竜馬を斬ったとされる刀。下手人は確か今だに分かっていないはずですが、京都見回り組 桂 早之助説に基づいているようです。竜馬を斬ったのは上の方で、割と短い刀(40cm)ほどですが、これはいわゆる小太刀で、狭い部屋でも立ち回れるように、木立の達人である桂 早之助が選ばれたそうです。

新撰組隊士名簿

新撰組隊士名簿。山口次郎と書かれているのがまた感慨深いです。

 

壬生寺

土方歳三

土方歳三の身長は163cmだったそうで、イメージよりは小柄だったのに驚きました。

 

明治維新は世界でも類を見ない急激な変化で、多くの犠牲を出しましたが、それにより日本がいち早く列強の仲間入りを果たすことが出来たという点で非常に重要な出来事であり、近代史でも好きなトピックです。同じ事象でも、維新側、幕府側それぞれの観点から見てみると背景がよりわかる気がします。

坂本龍馬は非常に好きですが、近年その業績に色々と疑問が投げかけられているようで、複雑な気持ちです・・・。司馬史観というやつでしょうか。

 

本当はもう少し回りたかったのですが、時間が出来たらもうちょっと京都を色々見たいと思います。

走無常<田中 芳樹>

<あらすじ>「人にして冥府の公用を務めるものあり。走無常と称う」
陰界の亡者を取り締まる“走無常”の活躍を描く短編4編とあの伝説の四兄弟乱入の書下ろし中編「天怪地奇人妖」収録。

 

<評価>★★★☆☆

田中芳樹先生の新刊が出たとのことで、読んで見ました。自分はなんだかんだアルスラーン戦記銀河英雄伝説創竜伝タイタニア薬師寺涼子の事件簿もアップフェルラント物語も好きなのですが、最近の田中先生の著作には若干思うところが無いわけではないですが、久々の新刊ということで期待していましたが・・・。

文体は相変わらず読みやすいです。瞠は今までの田中先生の主人公たちと比べるとやや大人しめで、マイルドな感じですが、走無常として、陰陽(死者と生者)のバランスをとる重要な仕事を見習いながらもこなしているのが魅力的です。ただ、創竜伝とかで最近目立つようになった、体制批判や衆愚政治に関する批評が相変わらず多くみられるのがちょっとげんなり・・・。

大手議員が亡くなりましたが、古代中国の呪法を使ってよみがえったあとにやろうとしていることが議員として再度復活して総理大臣を目指すというのは、俗っぽ過ぎてむしろ笑えてしまいます。意図的にやっているのかもしれませんが、死者が蘇り化け物になるというシビアな話の割には、一種ギャグみたいなやりとりが多く、むしろコミカルな印象の話が多いです。悪役もちょっとスケールが足りないような。

あと、書下ろしのエピソードではあのメジャーすぎる四兄弟が出演しています。これは非常にわくわくしましたが、逆にちょっと瞠の印象が薄れてしまい、完全に主役を取って代わられてしまった印象がありやや残念でした。これは創竜伝の外伝なのかなと思うくらい、結構取られている気がしましたので、ちょっとそこが残念な気はしました。

あと、結局瞠と京がなぜ走無常をやっているのかなどの背景が少し足りない気はしました。もしかして続編を考えているのでしょうか。

田中芳樹先生に初めて触れる方でも読みやすいかと思います。ただ、創竜伝を読まれた方の方がより楽しめる逸品です。

久々のルート確保

現在常勤の病院ではルート確保に呼ばれることは流石になくなりましたが、外勤として働いている検診施設では、ごくまれに技師さんが取れなかったルート確保を頼まれることがあります(自費の検診施設で、オプションで造影CTやMRIなどが出来るため)。

技師さんがかなり上手いので、ほとんど呼ばれることはなかったのですが、最近難しい患者さんがいて呼ばれることになりました。

ルート確保を自分でやるのはほぼ数年ぶりであり、駆血帯の巻き方どうやるんだっけと一瞬戸惑いましたが、一応巻いて血管をチェック。

確かに少し太り気味の患者さんで、肘窩もほぼ見えず、手背もあまりなし。

手首の撓側皮静脈にかろうじて行けそうな血管を見つけて、24Gでトライ、何とか一発で確保しました。

地味な仕事ですが、これも失敗するたびに患者さんからの視線がだんだん冷たくなるので、何とかうまくいって良かったと安堵しましたが、やはり手技系はやらないと必ず下手になるなと痛感しました。一番ルート確保上手かったのは研修医2年目くらいでしたかね。1年目の研修医が失敗した物を全て頼まれるので、必然的に鍛えられました。

最近は静脈可視化装置みたいなものもあり、また機械がサーフロー留置してくれるような技術も開発されているようですが、しばらくは人力で頑張る必要がありそうですね・・・。

静脈可視化装置

https://axel.as-1.co.jp/contents/oc/vvd

medium 霊媒探偵城塚翡翠<相沢 沙呼>

<あらすじ>

推理作家として難事件を解決してきた香月史郎は、心に傷を負った女性、城塚翡翠と出逢う。彼女は霊媒として死者の言葉を伝えることができる。しかしそこに証拠能力はなく、香月は霊視と論理の力を組み合わせながら、事件に立ち向かう。一方、巷では連続殺人鬼が人々を脅かしていた。証拠を残さない殺人鬼を追い詰められるのは、翡翠の力のみ。だが殺人鬼の魔手は密かに彼女へと迫っていた――。

 

<評価>★★★★☆

このミステリーがすごい1位になった話題作。キャッチコピーの、「すべてが、伏線」というのは確かに間違っていないなと思いました。

霊能力者である翡翠と、推理作家の香月のペアで、様々な犯罪事件を解決するのですが、最初は王道のミステリーかと思いましたが最後のどんでん返しが確かに凄いです。

翡翠は見た目はクールな美人ですが、普段は結構抜けているところもあり、また推理能力としてはあまりないため、自分の霊感を活かして香月にわずかなヒントを示すことで、香月が事件を解決するという形が多く、「いかにも」な設定でしたが、これは完全に騙されました。

ある事件の真相へと至る思考法が、2パターンあるというのが結構印象的でした。真犯人は予想通りの人でしたが、やはり真犯人だと思わせないいくつかのトラップがあるため、漠然と怪しいなと思っていましたが、真相解明編でのカタルシスは非常に大きいです。しかしちょっと主人公が万能すぎますね笑。

漫画、ドラマ化もしておりますが、まずは原作を読むのが一番お勧めです。

invert 城塚翡翠 倒叙集/霊媒探偵・城塚翡翠|日本テレビ (ntv.co.jp)

LES MISERABLES<新井隆広, 豊島与志雄, ヴィクトル・ユーゴー>

<あらすじ>

世界中で児童書、舞台、音楽、映像となり、様々な形で愛されてきた人間賛歌。だが、文豪ヴィクトル・ユーゴーが執筆した「原書」はあまりの難解さに読破が難しいと言われ続けてきた。その「原書」の物語に、俊英・新井隆広が挑む!!誇り高き人々が命を懸けて果たした“使命”。圧倒的スケールの物語が、超絶筆致で「完全」に蘇る!!

 

<評価>★★★★★

あまりにも有名過ぎて語ることもないですが、コミカライズとして非常に秀逸なのでご紹介。ミュージカルや映画など、数多くの媒体で作成されている世界的名作ですが、描写も見事で、非常に長い原作をうまくまとめており、名前だけ知っているが、内容をあまり知らない人にもお勧めできます。

たった一個のパンを盗んだために、19年間監獄に捕まっていたジャン・ヴァルジャン、釈放後にも偏見の目に晒され、自暴自棄になり、親切心から泊めてくれた司祭ミリエルの家から銀の燭台を盗んで逃げだします。後ほど憲兵に捕らえられ、司祭に引き合わされますが、司祭は燭台は彼にあげたものだと話したことで、司教の慈悲に打たれ、改心することを誓います。

出典:LES MISERABLES 1巻

その後ヴァルジャンはマドレーヌと名前を変え、市長として成功することになりますが、彼の工場で働くファンティーヌは、一人娘コゼットを遠く離れたテナルディエという夫妻に預け、懸命に働いていましたが、父がいない娘を育てているという悪評から、解雇されることになります。娘に仕送りをするために、髪も、歯も売り、最後には体を売ることになり病気になってしまいますが、ヴァルジャンはその解雇を知らず、彼女の悲惨な状況を知ったヴァルジャンは病床に苦しむファンティーヌにコゼットを会わせるために、テナルディエのところにコゼットを迎えに行こうとしますが、ジャン・ヴァルジャンという名前の元徒刑囚が別の町で捕まったことを知り、自分の代わりに冤罪として捕まった男がいることを悟ります。知らないふりをしてコゼットを迎えに行くか、それとも無実の人を助けるために、自分の正体をばらすかを迫られることになりますが・・・。

有名過ぎてあらすじを書くのもためらわれますが、この後も物語としては十数年にわたり非常に長く続きます。

非常に印象的なシーンとしてはエポニーヌが死ぬところですね・・・。

テナルディエの娘であるエポニーヌは、もともと貰われっ子であるコゼットのことを幼少時にいじめていましたが、その後コゼットはヴァルジャンに引き取られることになり、裕福な家で美しく成長することになります。一方でテナルディエはファンティーヌから騙し取ったお金も無くなり、犯罪に手を染めるようになりエポニーヌは貧困の中で父の犯罪まがいの行いを手伝うようになります。

出典:LES MISERABLES 4巻

成長してから二人の境遇は全くかけ離れることになりますが、コゼットに恋する青年マリユスと偶然知り合ったエポニーヌは、自分も彼に淡い恋心を頂いていましたが、彼のためにコゼットの家を探してあげることにします。

その後マリユスは六月暴動に参加することになりますが、そこで政府軍からのマリユスへの銃弾を身を挺して庇ったエポニーヌは命を落とすことになります。このシーンは描写も非常に美しく印象に残ったシーンです。

出典:LES MISERABLES 7巻

ただ、一番好きなキャラクターはジャビル警部ですね。

アメリカにいたときにミュージカルでも見ましたが、on my ownは本当に名曲です。

映画『レ・ミゼラブル』 "オン・マイ・オウン(On my own)" (youtube.com)

フランス文学は巌窟王や三銃士など、名作が多いですが、レ・ミゼラブルは一番好きな作品です。