孤高の人<坂本 眞一><新田次郎>

<あらすじ>

孤独な青年・森文太郎は転校初日、同じクラスの宮本にけしかけられ校舎をよじ登ることに。一歩間違えば死んだかもしれない、だが成し遂げた瞬間の充実感は、今までになかった「生きている」ことを確かに実感するもの…。文太郎はクライミングへの気持ちを加速させはじめた――!!

 

<評価>★★★★★

1969年に発表された新田次郎の名作小説孤高の人のコミカライズですが、単純な漫画化ではなく、現代風に色々とアレンジされています。孤独で人付き合いの下手な文太郎が、ロッククライミングの面白さから、登山にひきつけられていく様を描いた漫画ですが、最初の王道青春漫画の展開は三巻くらいで一瞬で終わり、かなり鬱屈した展開が続きます。

主人公の恩師である大西先生が山の事故で亡くなったあと、文太郎はバッシングを受け高校を中退することになり、親友だった宮本とも別れ、派遣社員として働くことになりますが、職場でも孤立し、ただ山に登ることのみにすべてを掛けます。

この漫画で凄いのは、登場人物のほとんどがクズであるところで、普通王道青春ものであれば高校時代の宮本と由美があんなふうになるのはありえないでしょう・・・。

いい人は嫁と職場の教授だけですね・・・。

この漫画はすべてを犠牲にしても山にかける文太郎の物語であり、特に登山の描写は他の漫画と比べても群を抜いて美しいです。特に終盤では擬音語に頼らない情景の描写が極限まで練られており、K2の静謐さ、峻厳さがありありと描かれています。

また、原作小説のフィナーレは衝撃的な展開で終わりますが、漫画においては作者は原作通りの結末にするか悩んだが、東日本大震災を経て、終わり方を変更することを決めたそうです。漫画版の終わりもある意味原作と同じ意味を持っていますが、また別の可能性として、非常にさわやかな終わり方をしています。

孤独であることは特に日本ではネガティブにとらえられることもありますが、他の何にも影響されず自分の道を貫く美しさを感じることができます。

坂本先生の画力は漫画家の中でも随一で、つらいときに読むことで非常に元気がもらえる名作です。

出典:孤高の人 16巻