白い巨塔<山崎 豊子>

<あらすじ>国立大学の医学部第一外科助教授・財前五郎。食道噴門癌の手術を得意とし、マスコミでも脚光を浴びている彼は、当然、次期教授に納まるものと自他ともに認めていた。
しかし、現教授の東は、財前の傲慢な性格を嫌い、他大学からの移入を画策。
産婦人科医院を営み医師会の役員でもある岳父の財力とOB会の後押しを受けた財前は、
あらゆる術策をもって熾烈な教授選に勝ち抜こうとする。

 

<評価>★★★★★

言わずと知れた超名作。何度もドラマ化、映画化され、漫画化もしています。患者への配慮や倫理観など全く気にせずただ飽くなき外科医としての技術と権力の上昇志向を持つ財前と、逆に常に患者のことを考え、地位には拘らないひた向きな学究の徒である里見の二人を焦点とした、医学界の有様を描いた名作です。

一番最初に触れたのは原作小説でしたが、正直現代の医療と比べると、かなり古い描写が多いです。例えば断層撮影という用語が出ていますが、今ではほぼCTにとってかわられています。また、術前の胃癌肺転移を見逃したことで財前は医事裁判に立たされることことになりますが、裁判の論点で化学療法(抗がん剤)をするべきであったかどうかが論争になっています。この抗がん剤にはマイトマイシンなど、現在ではまず使わないような古い薬に関して議論がされており、そもそも癌は薬では治らないという論調が一般的として描かれていますが、現在では抗がん剤は分子標的薬なども含めるとかなり発展しており、時代を感じます。

細かい点では古い描写はありますが、ドラマとしてみると構成はトップレベルに面白く、金や政治力が飛び交う教授戦、そこを勝ち取った財前と、のちに担当患者の治療方針で財前と食い違い、医事裁判では財前と戦うことになる里見。一度は患者側が敗訴しますが、その後控訴審へと移り、最終的に財前が敗訴し、最後は財前に末期の胃癌が見つかります。死の淵に瀕した財前が、最終的に学生からの親友であった里見と心を通わすやりとりは非常に美しく、最後も幻想的なまでに荘厳に終わります。

この小説は約50年前に書かれたものですが、現在の医学界を予言するような様々な問題提起がされており、山崎先生の取材の緻密さを感じます(訴訟多発に伴う萎縮医療、劣悪な大学病院の医局員の扱いなど)。実態とはまたかけ離れている部分も多いですが、小説として非常におすすめの作品です。

白い巨塔は漫画化もされていますが、こちらは内容も現代風にアレンジされ、また終わり方も少し異なるので一見の価値ありです。

出典:白い巨塔 1巻