税金で買った本<ずいの, 系山 冏>

<あらすじ>

小学生ぶりに図書館を訪れたヤンキー石平くん。10年前に借りた本を失くしていたことをきっかけに、あれよあれよとアルバイトすることに!
借りた本を破ってしまった時は? 難しい漢字の読み方を調べたい時は? ルールに厳しくも図書を愛してやまない仲間と贈る、読むと図書館に行きたくなる図書館お仕事漫画、誕生です!

 

<評価>★★★★☆

こう言っては何ですが、自分も多くの本を図書館で借りて読むことが多いです。この漫画は図書館で起きる様々な事柄を、個性あふれるキャラクターたちのやり取りから伺うことが出来ます。主人公は一応?元ヤンキーですが、本の面白さに心奪われ、図書館で働くことになる石平君ですが、他にもおっとりしていますが心強い先輩である早瀬丸さん、元は陰キャでありますが本のためにマッチョになった白井君など、かなり個性が豊かなキャラクターがおり、どれも非常に魅力的です。

個人的には石平君が子供への本の読み聞かせに悩む話がすごい好きです。三匹のやぎのがらがらどんは自分も小さいときに読んで非常に印象に残っている絵本ですね。この回初登場の朝野さんも子持ちとは思えないほど可愛いです笑。

出典:税金で買った本 2巻

図書館ってホント公的なサービスとしては滅茶苦茶使いやすく優秀で、自分もいろいろな図書館の利用証を作り、予約待ちの資料を分散させて、少しでも早く読めるように小細工をしていたりします。本を読むだけでなく、勉強や、仕事など色々な作業をする際は図書館でやることが多いので、本当にお世話になってます。

この漫画は恐るべき悪事とか、血沸き肉躍るアクションとかはありませんが、誰もが必ずお世話になったことがある図書館での日常を凄く楽しむことが出来るお勧めの一品です。

光のとこにいてね<一穂 ミチ >

<あらすじ>

――ほんの数回会った彼女が、人生の全部だった――

古びた団地の片隅で、彼女と出会った。彼女と私は、なにもかもが違った。着るものも食べるものも住む世界も。でもなぜか、彼女が笑うと、私も笑顔になれた。彼女が泣くと、私も悲しくなった。
彼女に惹かれたその日から、残酷な現実も平気だと思えた。ずっと一緒にはいられないと分かっていながら、一瞬の幸せが、永遠となることを祈った。
どうして彼女しかダメなんだろう。どうして彼女とじゃないと、私は幸せじゃないんだろう……。――二人が出会った、たった一つの運命、切なくも美しい、四半世紀の物語――。

 

<評価>★★★★★

この小説も話題になっていたので読んで見ましたが、非常に良かったです。裕福なお嬢様として育てられてきた結珠と、貧しく、満足に服も用意されない果遠。7歳で彼女たちは初めて出会い、お互いの境遇の違いに驚きますが、二人とも非常に歪んだ親を持つという点では共通でした。

その後彼女たちはすぐに別れることになりますが、高校になって二人は再会します。ただ、果遠はあまりにも変わってしまっており、金持ちしか通えない高校なのに、奨学金により特待扱いをされ、結珠はあまりの変貌ぶりに距離を置くようにしかつきあえません。同様に果遠も積極的に結珠に話しかけようとはしませんでしたが・・・。

結珠は医師の家庭に生まれ、医師になるように親から期待されていますが、本当は別に夢があり、親の期待に応えることに重圧を感じています。また、果遠の母は子供の世話をロクにせずに、失踪するような親であり、この作品の大きなテーマとして、親と娘の関係というのがあると思います。全く違った性格の二人が、成長につれてお互いの家庭や、境遇を見つめなおし、二人の関係性も少しずつ変わっていますが、別れの時にいつも語られる「光のとこにいてね」というフレーズが非常に印象的です。

百合小説と語られることもありますが、二人の関係性は単純に百合といった関係で片付けられるものではなく、友情、家族愛、その他どの単語でも一言では表せない不思議な関係かなと思います。

最後の終わり方がちょっと唐突過ぎる感じがありますが、非常に筆致も繊細かつ美しく読みやすいので、お勧めです。

リクドウ<松原 利光>

<あらすじ>

父親を失った少年・芥生リクは借金取りの元ボクサー・所沢京介と出会う。理不尽に満ちたこの世界で、人は何をよすがに生き抜くのか。戦うのか。人生という茨の道を歩む芥生リクの破格の拳闘ストーリー!
少年には何もない。その拳以外は。

 

<評価>★★★★☆

父が自殺し、更に母の愛人を殺した少年リク。人殺しと罵られながらも、父親の借金取りの一人であった元ヤクザの所沢からボクシングを教えられ、ボクサーの道を目指します。子供のころのリクが、自殺して首を吊った父親を、普段から虐待されていた仕返しとばかり殴っているのが非常に壮絶な描写ですが、その後も優しくしてくれた養護施設の先生がヤクザに強姦されたり、対戦相手を殺してしまったりと、かなりダークな展開が目立ちます。

ボクシング対決の描写も非常に詳細で迫力もありますが、ただのボクシング漫画というよりは、タイトルの通りリクの人生を描いた青春漫画という印象です。この漫画はとにかく幼馴染の苗代が非常にかわいいですね。リクが求めているのは母性であり、異性ではないのですが、はがゆさを感じながらもリクを温かく見守る苗代はヒロイン力MAXです。途中からちょっと王道ボクシング漫画のような展開になったり、あと終わり方があっけないのがやや残念ですが、非常におすすめです。

 

出典:リクドウ 14巻

累<松浦 だるま>

<あらすじ>

イブニング新人賞出身の新しき才能が放つ『美醜』をテーマにした衝撃作!! 容貌の醜さから人に忌み嫌われてきた累。そんな彼女に、女優であった美しき母親が遺した1本の口紅。その口紅は他者の顔を奪うことが出来るという謎の力を持っていた。累はその力を使い、美しき者が享受するすべてを奪う事を決意する。

二目と見れぬ醜悪な容貌を持つ少女・累。その醜さ故、過酷な道を歩む累に、母が残した一本の口紅。その口紅の力が、虐げられて生きてきた、累の全てを変えていく――。

 

<評価>★★★★★

演技の才能を持つものの、生まれたときから身の毛のよだつような醜さで生まれてきた累<かさね>。母から託された口紅の能力で、美女の顔を自分のものとし演劇の世界で才能を発揮していきます。結構残酷描写も多く、そもそも累が受けてきたいじめがかなりひどいレベルで、特に女性にとって美醜で評価されてしまうことの厳しさを痛感します。

累は自分の顔のままでは外に出ることも憚られるくらいですが、演劇の世界で羽ばたくために、顔の良い女優をターゲットとして、その顔を奪い、舞台に立つことになります。

例えば美しい容姿を持っていますが、眠り病という特殊な持病を持ち、長時間舞台に立てない丹沢ニナは、累と交渉しその特殊な口紅の能力を知ったうえで、自分の顔を貸す代わりに、累に丹沢ニナとして舞台に立つ機会を提供しますが、徐々に「丹沢ニナ」として成功する累を見て、自分の存在が消えていくような錯覚に陥り、ついに累とニナの同盟関係は破綻することになりますが、その終末が非常に美しく、また衝撃的です。

出典:累 11巻

ニナを失った累は次なるターゲットを探すことになりますが、更に累の出生に関わる人物と出会い、母の謎にも迫っていくことになります。

全14巻で完結済みで、納得のいく終わり方ではありますが、強いて挙げるとすれば累の結末があまりにも不幸で報われないのが後味が悪い点でしょうか。累は色々と悪事と呼ばれることもしましたが、大本はただ「醜く」生まれただけであり、この悲惨な結末に至るまでの罪を犯したと言えるのかはちょっと腑に落ちませんでした・・・。

土屋太鳳さんと芳根京子さんの二人主演で映画化もされている名作です。

累

  • 土屋太鳳
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あいだにはたち<さおとめ やぎ>

<あらすじ>

高校3年生の夏。大学受験を控えた男子高校生・高江玲於奈(たかえれおな)は38歳の超美人・ミサさんと偶然に出会う。一目惚れした玲於奈は、彼女との年齢差を埋めたい一心で、25歳の大学院生である兄の名前を騙ってしまう。彼女もまた秘密を抱えているとも知らずに……。歳の差20歳、嘘から始まるラブサスペンス、開幕!

 

<評価>★★★★★

18歳の高校生玲於奈と、38歳の美女ミサとの恋愛物語、という単純な図式ではありません。一見ただのお色気コメディに見えますが、この作品は高齢出産、精子提供、シングルマザーといった社会問題も匂わせる非常に奥深い作品です。

玲於奈は偶然ミサと出会い、セックスフレンドにならないかを唐突に誘われます。ミサを38歳と知り、自分より20歳も上であることに驚く玲於奈ですが、ミサがスタイルも性格も頭もよい女性であり、関係を持つことを同意します。

ただ、玲於奈は高校生であるため、自分の正体は隠し一流大学の学生である自分の兄一作のふりをして付き合うことにします。

しかし、ミサは単純に玲於奈のことが好きになったわけではなく、実は自分の子供が欲しいため、一流大学に通っているという玲於奈(実際には兄一作の経歴を詐称しているのですが)にセックスフレンドになることを持ち掛けたのでした。興味があるのは恋愛ではなく、ただ精子のみというミサ・・・。

この作品の良さは、最初は美魔女のミサに振り回されるだけだった玲於奈が、最後には大きく成長し、ミサのすべて(実はミサという名前も、経歴もすべて偽りのものです)を最終的に受け入れる成長だと思います。また、ミサも若いときから不幸な恋愛ばかりしており、最終的に男はいらず子供さえいればよいという考えに落ち着くのが、かわいそうでもありまた怖くもあります。ミサも初めはただのお色気お姉さんのように描写されていますが、徐々に玲於奈を騙すことに呵責を覚え、また玲於奈から正式に付き合ってほしい旨を言われても、年の差で玲於奈を不幸にすることを心配して彼の前から姿を消す思いやりも見せています。彼らの間には永遠に20年という時間差が存在しますが、二人が出す結論は・・・。

全6巻と短いですが、終わり方も非常に綺麗ですので、お勧めです。もう僕たちのあいだにあるのは年齢差だけじゃないでしょう?」という言葉が、本当に感動的です。

 

出典:あいだにはたち 4巻

さおとめ先生の漫画はどれも非常にテーマ性に富んでいて、ストーリーも秀逸で絵もきれいなので大好きです。

フリンジマン<青木U平>

<あらすじ>

「愛人を作ってみたい!」そんな無謀な夢を抱いた男たちが、どっちに向かっているのかわからないまま走り出し始める!数多くのミッションをクリアし、男たちに愛人は訪れるのか!?真実の愛とかとはまるで縁のないこの漫画に括目せよ!というかしてください! 場末の雀荘に集まった4人の男たち。彼らはある共通の願望で繋がっていた。その願望とは「愛人を作りたい!!」という清々しいまでに不純で、申し開きできないくらいにストレートなものである。そして男たちは『愛人同盟』を結成する!! 不倫のベテランである井伏(通称:愛人教授)から、愛人作りのノウハウを伝授される田斉たち。果たして、彼らは愛人を獲得することができるのか‥‥ッ!?

 

<評価>★★★★☆

タイトルがまず秀逸。Fringe-man (逸脱した男?)、という意味と、そのまま不倫自慢、というダブルミーニング。もてない既婚者男性3人たちが、どのように愛人を作るかを描くギャグマンガです(男一人はそもそも独身ですが・・・)。

ギャグのキレが冴えまくっていて、3人のもてない男は愛人づくりの達人、愛人教授(ラ・マンプロフェッサー)と知り合い愛人の作り方を教わるのですが、教授の教えが厳しい。

「愛人関係とは割り切ったオトナの関係なのです。感情を捨てなければ愛人関係という『任務』は遂行できません」

マシーンになるのです。

出典:フリンジマン 1巻

何を言っているんだ・・・笑。

マシーンになって不倫してもあんまりおもしろくなさそうですが、このように教授の教えにより、もてない男3人は愛人作りの険しい道を上っていくのです。

世の女性達から見ると不謹慎この上なさそうですが、キレのあるギャグと、謎の説得力により、かなり面白く読めます。終わり方がかなりあっさりなのだけがちょっと残念。

割と人気があったのか、最近ドラマ化もされました。

青木先生の漫画ではミワさんなりすますもお勧めです。

キャスト|土曜ドラマ24「フリンジマン~愛人の作り方教えます~」:テレビ東京 (tv-tokyo.co.jp)

流浪の月<凪良 ゆう>

<あらすじ>

最初にお父さんがいなくなって、次にお母さんもいなくなって、わたしの幸福な日々は終わりを告げた。すこしずつ心が死んでいくわたしに居場所をくれたのが文だった。それがどのような結末を迎えるかも知らないままに――。だから十五年の時を経て彼と再会を果たし、わたしは再び願った。この願いを、きっと誰もが認めないだろう。周囲のひとびとの善意を打ち捨て、あるいは大切なひとさえも傷付けることになるかもしれない。それでも文、わたしはあなたのそばにいたい――。

 

<評価>★★★★★

9歳の少女だった更紗は父を亡くし、母も家を出てたった一人になり伯母の家に預けられますが、そこで伯母の息子から性的な嫌がらせを受けるようになり、地獄のような日々を過ごします。更紗は伯母の家に帰ることが嫌になり、死ぬことすら考えますが、そんな時に声をかけてくれたのが19歳の青年文でした。

文は昼間から公園に座っていつも小学生を見ており、ロリコン、不審者の疑いがうわさされている青年でしたが、更紗を温かく迎え入れ、純粋な家族として二人だけの生活が始まります。しかし、ある日更紗と文が動物園に出かけると、既に誘拐事件として通報されていたことにより文は警察に捕まり、更紗とも引き離されてしまいます。

その後更紗は文の消息を知ることはありませんでしたが、15年後に二人は再会を果たすことになります。

この小説では更紗のキャラがかなり独特で、なかなか他の小説では見ない性格だなと思いました。普通小学生でも小児性愛者が怖い、近づかない方がよいという認識は持っているかと思いますが、地獄のような生活から抜け出したいと思っていた更紗は、文を怖がることなく、むしろ父の面影を求めて自分から家に住み着くことになります。更紗の母親も世間的に見ると毒親で、子供を置いて疾走するような人ですが、更紗は全く恨みには感じず、ただ寂しいと思っているだけです。

更紗は警察に保護されたのちも、ずっと文は何も自分に悪いことはしなかったこと、自分から進んで文の家に押し掛けたことを伝えますが、周囲の大人たちはそれを本気で信じる者はおらず、ストックホルム症候群のように一種の依存状態にあるのだと解釈し、文と更紗を引き離そうとします。

「俺はハズレだ。引き抜かれたトネリコは俺だ」

最後に明かされる文の秘密はかなり医学的にも興味深く、彼はただの小児性愛者と片づけられるものではないことが非常に印象的です。

この小説は小児性愛を肯定するようなものでは勿論全くなく、もともと生きづらさを抱える人々がどのように寄り添っているか、周囲からの見方と、本人達の認識がどれほどギャップがあるかを教えてくれます。

文体も簡潔で一種詩的で、非常に読みやすいです。凪良 ゆう先生の本はいずれも非常に面白いのでお勧めです。

映画にもなっていますので、こちらも見ようかと思っています。