惡の華<押見 修造>

<あらすじ>

ボードレールを愛する少年、春日高男。ある日、彼は、放課後の教室に落ちていた、大好きな佐伯奈々子の体操着を、思わず盗ってしまう。それを、嫌われ者の少女・仲村佐和に見られていたことが発覚!! 盗んだことをバラされたくない春日に、彼女が求めた“契約”とは‥‥!?

 

<評価>★★★★★

押見修造先生の漫画はどれも思春期特有の悩み、抑うつ、異性関係などを赤裸々に描写していますが、その中でもこの惡の華はかなり描写が特異です。好きな子の体操着を盗む、だれもいない間に教室に侵入し滅茶苦茶にする、そしてお祭りの日にガソリンをかぶって心中を試みる、といった、一見異常としか思えない行動が嵐のように描写されます。

高校編では打って変わって落ち着いた描写が見られますが、高男の心にはまだ秘められた部分があり、様々な軋轢を生みます。思春期特有の鬱憤や、田舎暮らしの閉塞感が外に爆発しているようですが、そのような単純なものではなく、自分は何を求めているのか、何をしたいのかを問いかける成長物語のような面もあります。

高校編の常盤さんのキャラや、小説を書くのが趣味で高男と急につきあうようになるのはあまりにもご都合的で中二病感を感じますが、中学生の外へ向けられた爆発的な欲動と対照的な、高校編の静かな中に感じる狂気、鬱屈さは非常にうまいと思います。

押見先生は非常に画力が高い先生ですが、高校編では中学生編と比較して一気に絵のタッチが変わり、写実的で繊細な描写になるところも非常に好きです。

中学生編

出典:惡の華 1巻 

高校生編

出典:惡の華 7巻

出典:惡の華 11巻

最終話は佐和の視点から見た高男との出会いのシーンですが、佐和にはこのように世界が見えていたんですね・・・。

描写が一部過激だったり、フェティッシュだったり人を選ぶ作品ですが、間違いなく名作だと思います。

アニメ、映画化もしています。アニメのキャラデザはかなり異色ですが。

押見先生の作品はどれも好きなので、また取り上げるかもしれません。

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ラバー・ソウル<井上 夢人>

<あらすじ>洋楽専門誌にビートルズの評論を書くことだけが、社会との繋がりだった鈴木誠。女性など無縁だった男が、美しいモデルに心を奪われた。偶然の積み重なりは、鈴木の車の助手席に、美縞絵里(みしまえり)を座らせる。大胆不敵、超細密。ビートルズの名曲とともに紡がれる、切なく衝撃の物語。空前の純愛小説が、幕を開ける――。

 

<評価>★★★★☆

非常に裕福ですが、不幸にも生まれつき身の毛のよだつような風貌に生まれてしまった鈴木誠。ですが、偶然出会った美縞絵里に恋をします。恋といっても、あまりにも醜く生まれてしまい、顔を隠しても外に出ることすら難しい誠にとっては、ただ見ているだけで幸せになれる対象が絵里ですが、徐々にその行為はエスカレートし、望遠レンズで彼女の部屋を覗き見る、隠し撮りした彼女の写真を部屋中に張り付ける、車で彼女をつけまとう、などといった異常な行動をとるようになっていきます。ついに、彼女に付きまとう(と誠が思い込んでいる)男たちに敵意を抱いた誠は、絵里を護るために彼らを殺すことになるのですが・・・。

最初のほとんどは気持ち悪いストーカーである誠と、被害者である絵里や、他の事件関係者らが事件がすべて終わった後に刑事の質問に対して答えているような独白形式でつづられ、特に誠が絵里の友人である裕太、及び同僚である富永を殺す描写に至っては、これのどこが純愛小説なのかずっと首をかしげていました。ただ、物語に何らかの仕掛けがあることは予測されましたが、まさに最終章ですべてが明かされた際に、この物語が確かに純愛であることがわかりました。

「護られてばかりだったぼくが、初めて他人<ひと>を護る立場に立たされました。絵里さんを護るために生きるー自分というものの存在に、ぼくは初めて意味をみつけたんです」という誠の台詞は、本当に心からの言葉で、彼がどんなに異常な行動をするように見えても、幸せだったことがわかります。

特に登場人物の中で印象的なのが、誠の使用人としてずっと仕えていた老紳士である金山です。親にも見放され、ただずっと引きこもり音楽を聴いていた誠が、初めて音楽評論を雑誌に掲載されることになり、誠と金山が泣きながら二人で抱き合い快挙を祝う描写は胸に迫るものがあります。誠が絵里に示したように、金山が誠に示していたものも間違いなく愛と呼べるものだったのかと思います。誠の生涯があまりにも悲惨なように見えますが、本人は間違いなく幸せだったのでしょう。

ちょっとストーカー描写が長いのが玉に瑕ですが、非常に読みやすく楽しむことが出来ました。

鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎

出典:東映チャネル

<あらすじ>昭和31年、哭倉村は日本の政財界を裏で操る龍賀一族によって支配されていた。野心と密命を背負う水木は、龍賀家当主であった時貞の弔問を建前に、また鬼太郎の父は行方不明の妻を探すためにそれぞれ村を訪れる。一方、龍賀一族では、時貞の跡継ぎを巡り醜い争いが繰り広げられていた。そんななか凄惨な殺人事件が起き、一族の一人が殺されてしまう。

 (出典:鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎:映画作品情報・あらすじ・評価|MOVIE WALKER PRESS 映画

<評価>★★★★☆

日本人なら誰もが知っているゲゲゲの鬼太郎ですが、最新作であるこの映画はかなり良かったです。横溝正史の小説に出てきそうな因習に囚われた一族と、閉鎖された村で起きる連続殺人事件、そして怪異の存在と、かなり暗鬱なストーリーで、事前情報でもかなり楽しみにしておりました。

実際見てみると主人公である水木(水木しげるその人を示唆していると思われます)と鬼太郎の父との相棒感が非常に良いですし、龍賀一族の面々もそれぞれ非常にキャラが立っており、また殺人事件の犯人というミステリーの観点からも二転三転して非常によく練られておりました。水木と一番良い感じになり、接し方も優しい沙代が怪しいなというのはすぐにわかるのですが、更なる黒幕のあの人はちょっと予測できませんでした。

出典:映画 鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎より

PG12ではちょっと足りないのではないかと思うような残酷描写と、近親相姦ネタも時代背景とこの陰惨な村に非常にマッチしており、かなりハラハラされました。一番最後が墓場の鬼太郎につながるように終わらしているのは感動的ですね。

過去編ということで鬼太郎自体の活躍はほとんどありませんが、鬼太郎が生まれる前にこれほどのドラマがあったことを知り、アニメ版も再度見たいと思うようになりました。

星の大地<冴木 忍>

<あらすじ>

レーンドラの王女の突然の自殺、蘇生…だが予見の力も記憶もなくしてしまった…。わがまま王女と世間しらずの侍女アゼルの二人は、唯一の手掛かりである男を探す旅へ--。

 

<評価>★★★★★

これもかなり古い小説で、中学生の時くらいに読んだ覚えがあるのですが、結構衝撃的でした。冴木忍さんが書く小説は結構牧歌的というか、わりと平和的なものが多いのですが、この星の大地だけは異色で、大人になってからも記憶に残っています。

始まりは王道ファンタジーという感じですが、主人公のアゼルは、清楚で大人しく、予知能力持ちでもあるレーンドラの王女であるサウラに仕えていましたが、ある日王女サウラが突然自殺を図ります。

からくもサウラは蘇生に成功するのですが、蘇った後には完全に性格が豹変し、粗暴な行動をとるようになり、更に記憶も消失し予知能力も消えてしまっていました。ただ一人サウラの記憶に残っている男を探して、アゼルはサウラと国を出奔して旅に出るのですが・・・。

1.2巻は割とよくあるラノベ展開なのですが、3巻で様相がガラッと変わります。途中から世界に起こる厄災からどうやって人々を助けるか、主人公たちが奮闘するのですが、非常に厳しい状況の中で主人公達が必死に頑張ってやってきたことが、人々が皆わが身のことしか考えず混乱を極める中で全て徒労に終わり、努力の結果が水の泡になるというのがかなり衝撃的です。バッドエンドの極致みたいな展開で、後味の悪い物語でもたまに言及されているのを見たことがあります。

ラストの描写が鳥肌ものというか、あの世界でアゼルはどうなっていくのか、あまりにも悲壮感が漂いますが、一種美しさも感じる凄絶な終わり方です。読了後は放心状態になるような衝撃を受けたことを覚えています。

非常に古い本で、今では中古でしか手に入らないかと思いますが、全3巻と短いので、読みやすいかと思いますので、お勧めです。

オルタネート<加藤 シゲアキ>

<あらすじ>高校生限定のマッチングアプリ「オルタネート」が必須となった現代。東京のとある高校を舞台に、若者たちの運命が、鮮やかに加速していく。
全国配信の料理コンテストで巻き起こった〈悲劇〉の後遺症に思い悩む蓉(いるる)。母との軋轢により、〈絶対真実の愛〉を求め続ける「オルタネート」信奉者の凪津(なづ)。高校を中退し、〈亡霊の街〉から逃れるように、音楽家の集うシェアハウスへと潜り込んだ尚志(なおし)。恋とは、友情とは、家族とは。そして、人と“繋がる"とは何か。デジタルな世界と未分化な感情が織りなす物語の果てに、三人を待ち受ける未来とは一体――。

<評価>★☆☆☆☆

NEWSの加藤シゲアキさんが書かれた青春小説とのことで、かなり評価が高いようだったので読んでみたのですがこれは・・・。

何よりも設定がよくあるラノベのようで、ちょっと食傷気味でした。マッチングアプリの遺伝子診断で相性がパーセンテージで表示されるとか、シェアハウスで暮らすミュージシャン達、姉の手術のためにアメリカの高校に入るとか、あまりにもテンプレートの嵐で、ちょっと引き込まれませんでした。登場人物の名前もちょっと今風というか、キラキラし過ぎて没入できなかったです。今どきの若い高校生には結構受けるんでしょうか。自分が年を取ったから楽しめないんでしょうかね・・・。響け、ユーフォニアム!とかは面白かったのですが。加藤シゲアキさんは他にもいろいろ作品があるようですが、今のところあまり心惹かれないですね・・・(個人の感想です)。

傲慢と善良<辻村 深月>

<あらすじ>

婚約者・坂庭真実が姿を消した。その居場所を探すため、西澤架は、彼女の「過去」と向き合うことになる。「恋愛だけでなく生きていくうえでのあらゆる悩みに答えてくれる物語」と読者から圧倒的な支持を得た作品が遂に文庫化。

 

<評価>★★☆☆☆

一時期結構話題になっていたので読んでみたのですが・・・。個人的にはかなり微妙。結婚相談所で相手を見つけるときの妥協、打算、辛さなどは非常にわかるところなのですが、如何せん描写がかなり冗長で長い。主人公の架は、50人以上と会ったが、いずれもピンとくる人がおらず、中々結婚に踏み切れなかったのですが、ピンとくる、というのはすなわち自分が相手を自分と比較して何点か、という採点をして、それが合格点に満たないことを意味することに気付かされ、愕然とするのですが、

「それって当たり前じゃね??」

という感想しかありませんでした。結婚相談所ってそういうところでしょう・・・。あと、結婚相談所の女性といい感じになっても、だらだら次に進まず付き合っていたらそりゃ振られますよね・・・。

結局架は女友達の美奈子に、真実と結婚したいという気持ちを何%か聞かれて、「70%」と言ってしまい、それが美奈子から真実に伝わってしまい、真実は自分が70点しかない女なのだと考え、失踪することになるのですが、結婚に踏み切る要因は家庭の事情や自分の職場とかいろいろな要因があると思うので、結婚に踏み切る確率が70%は、その女性が70点であることとはイコールではない気がします(これは作中でも言及されていますが)。

あとこの美奈子という女友達は平気で真実に面と向かって悪口を言う、しかもそれを架にも吹き込むというかなり不愉快な描写がされる女性で、そもそもこんな女友達を周りにキープしている時点で、彼女に逃げられても仕方がないよという感想しかありませんでした。

あと、真実もいい子ちゃんに育てられすぎたのはわかるのですが、連絡先を全て絶って急に福島にボランティアに行くって脈絡なさすぎじゃないですかね・・・・

辻村さんの小説は色々有名ですが、かがみの孤城もネタが読めてしまって自分はどうものめりこめませんでした。自分とは相性がちょっと悪い作家さんのようです(あくまで個人の感想です)。

連続殺人鬼 カエル男<中山 七里>

<あらすじ>史上初! 最終候補にダブルエントリーされ、「こっちを読みたい!」という声が続出した話題作。『さよならドビュッシー』『おやすみラフマニノフ』に続く中山七里の最新刊。『このミス』ファン待望の作品が、満を持して登場!
マンションの13階からフックでぶら下げられた女性の全裸死体。傍らには子供が書いたような稚拙な犯行声明文。これが近隣住民を恐怖と混乱の渦に陥れる殺人鬼「カエル男」による最初の凶行だった。警察の捜査が進展しないなか、第二、第三と殺人事件が発生し、街中はパニックに……。無秩序に猟奇的な殺人を続けるカエル男の正体とは? どんでん返しにつぐどんでん返し。最後の一行まで目が離せない。

 

<評価>★★★☆☆

カエル男による連続猟奇殺人の謎を解明するミステリー。精神障害者が犯罪を行った場合の責任能力に関する議論もあり、社会的な内容を含んでいます。犯人が二転三転し、結局真犯人と言える人物には特に司直の手が伸びずに、非常に巧妙な計画が張り巡らされているのが印象的です。

悪くはないのですが、印象として、猟奇殺人の描写が最初は新鮮だったのですが、何回も繰り返されてしまうと結構冗長で、ちょっとダレる印象があること、またハサミ男など、叙述トリック物を結構読み込んでしまった自分としては、ある程度トリックと物語の仕掛けが読めてしまった点で、そこまでのめりこむことができませんでした・・・。(ナツオのモノローグに関するミスリードとか。)

カエル男がカエルにこだわる理由もあまりはっきりとは描写されず、カエルである特徴をあまり行かせていない印象もあります。犯罪歴のある精神科受診中の患者の個人情報を開示するように市民が暴動を起こすというのは、ちょっと現実味がなさすぎるような・・・。

真犯人が今後どうなるかは気になりますが、こちらは続編もあるようなので、一応そちらも読んでみたいなと思います。