テスカトリポカ<佐藤 究>

<あらすじ>

メキシコのカルテルに君臨した麻薬密売人のバルミロ・カサソラは、対立組織との抗争の果てにメキシコから逃走し、潜伏先のジャカルタで日本人の臓器ブローカーと出会った。二人は新たな臓器ビジネスを実現させるため日本へと向かう。川崎に生まれ育った天涯孤独の少年・土方コシモはバルミロと出会い、その才能を見出され、知らぬ間に彼らの犯罪に巻きこまれていく――。海を越えて交錯する運命の背後に、滅亡した王国〈アステカ〉の恐るべき神の影がちらつく。人間は暴力から逃れられるのか。心臓密売人の恐怖がやってくる。誰も見たことのない、圧倒的な悪夢と祝祭が、幕を開ける。

 

<評価>★★★☆☆

メキシコ麻薬戦争の酷さは色々と耳にしたことがありますが、描写がグロいことこの上ない。麻薬の密売やそれにかかわる抗争の描写が残酷なのは勿論、メキシコでの抗争に敗れたバルミロはジャカルタで謎の日本人末永と出会い、協力して新たなビジネスを作っていくことにしますが、このビジネスが元心臓外科医である末永による幼い子供を用いた裏の心臓移植ビジネスというのがまた非常に陰惨です。

日本でも無戸籍児は一定数存在するようですが、善意のNPO法人を装ってこのような子供たちを世界の富豪に斡旋するという、非常に胸が悪くなるストーリーです。

バルミロは幼いときの祖母からの教えにより古代アステカの生贄に基づいた神話、死生観を信じており、最高の神であるテスカトリポカに生贄を捧げる戦士として、家族や仲間の命を顧みず、どんな残酷な行為にも手を染めます。

日本で平和に生きる我々とは全く異なる倫理観、生命観の登場人物が多く現れ、狂気の世界がつづられています。

その中でも宇野矢鈴は若い保育士さん(昔でいう保母さん)ですが、保育園勤務の大変さからコカインに手を出してしまい、知らぬうちにバルミロのビジネスに手を貸していくことになります。本人は何らかの理由で親のところに返すことができない子供たちに里親を見つけてあげるという善行をしているつもりで、実際には臓器斡旋ビジネスに手を貸していることを理解していない人物です。ただ、最後にこの人物が重要な役割を果たし、ある少年を助けることになるのが印象的です。化け物感満載の登場人物の中でも、割と人間味がある人かなと思いました(パブロは別格ですが)。古代アステカに関する記述は非常に細かくリアリティがあり、作者様の取材が非常にしっかりしていることがよくわかりました。

文体も読みやすいですが、なんせ結構長いです・・・(560P)。あと最後がちょっとアッサリ気味に終わるのが少し残念でしたが、読了後は割とすっきり感はあるかなと思います。ただ、この事件が明るみになれば、国際的にとんでもない大騒動になりますね・・・。