東独にいた<宮下暁>

<あらすじ>

ベルリンの壁で一つの国が真っ二つに裂かれた世界。
東ドイツ
社会主義が支配するその国に住むアナベルは、
古本屋を営む青年・ユキロウに密かな恋心を抱いていた。
そして、国家の陰謀が絡む明かせない秘密を。
時代が、思想が、抗争が、二人を別つ壁となる――。
東ドイツに生きた人々を描く本格派歴史劇。

 

<評価>★★★★★

ドイツ分断の時代、まだ自由主義共産主義に分かれていた時代は非常に好きで、フィクション、ノンフィクション限らず色々と読んだことがあるのですが、この漫画はそんな時代に、共産主義である東ドイツ側の軍人であるアナと、その友人かつ想い人であるが、実は、東ドイツ政府転覆をはかる自由主義陣営の地下組織フライハイトのリーダーであるユキロウを主軸にした歴史活劇。

アナはただの軍人ではなく、多目的戦闘群(MSG)と呼ばれる強化された5人の特殊な軍人の一人で、一人でテロリストであるフライハイトのメンバー数人を瞬時に殺せる程の強さを持っています。ホーネッカーなど実際の東独の閣僚が出てきたり、非常に史実に即した描写があると思えば、このように少年漫画の王道のような戦闘描写があるなど、そのバランスが非常にうまく出来ている傑作です。

ユキロウは普段はただの温和な書店の主人で、アナは彼が敵対組織のリーダーであることは知らないのですが、途中でその事実に気付き、彼と1対1で会い、決別を告げるのですが、このシーンが非常に綺麗で泣けます。ユキロウはアナに西ドイツに一緒に行くことを告げるのですが、アナはその未来を想像し、非常に幸せな未来だとわかっていながら、ユキロウの組織であるフライハイトを壊滅させて、東独で生き続けることを告げるのです。

出典:東独にいた 3巻より

こちら非常に面白いのですが、残念ながら5巻で一旦休巻となっています。ご存知の通り最終的に東ドイツは1990年に西ドイツに吸収合併される形で消滅するのですが、今後作中でどのようにその描写がされるか楽しみです。作者の宮下先生は現在他の連載を担当されていますが、ぜひこちらの連載再開も心待ちにしています。

出典:Wikipedia ブランデンブルグ門 より

東西ドイツの境界上にあったブランデンブルグ門。以前にドイツ滞在中に見に行きましたが、歴史を感じる建物でした。